天馬街道をゆく

天馬街道は浦河町の幌別地区から日高山脈の南に位置する野塚岳付近を越えて豊似に至る60km程の峠道です。かつて日高横断道路という、中部日高の盟主カムイエクウチカウシ岳の腹を抜くとんでもない道路が計画されたことがありますが、莫大な費用と崖崩れなどによる難工事が続き、さらには自然破壊の危惧からの反対も根強く、結局中止になって久しいです。そのためこの道が日高山脈を越える事実上唯一の自動車道です。その名も名馬の産地日高にふさわしく天翔る馬の道というのも憧れを誘います。

今回は日高幌別川付近からスタートして、この天馬街道を越え、豊似、広尾と進んで黄金道路から襟裳岬を越えて海伝いに周回するという、約170kmのコースをたどることとしました。short bike rideとは言えないかも知れませんが、足に自信のある方なら一日で周回できるでしょう。私は自信がないので途中で一泊することとして、MTBにテントなどを積み込んで出かけてみました。

荷物満載のMTB TOPEAKのなんちゃってパニアです

荷物満載です

朝早く出たかったので、前日はこの付近のキャンプ場で一夜を明かしました。今回は三石道の駅です。ここは道の駅の裏側がキャンプ場になっていて波の音を聞きながら寝ることが出来ます。洗面やトイレは道の駅を利用することも出来て便利です。腹ごしらえをして、浦河のセブンイレブンのコーヒーで目を覚まします。

車は日高幌別川を渡る手前の駐車帯に停めました。すぐ近くに交番があって悪戯の抑止にはなるか。何しろ戻ってくるのは明日なので人の目があるところは安心です。自転車に荷物を積み込むと結構な重さになりました。ロードバイクの倍はあるか。テント、シュラフ、小型のコンロ、水用のタンク、着替えに雨具、食料、その他の電子機器、地図などです。

競走馬の運搬車はまるでバスのよう

競走馬運搬車

駐車帯を出てすぐに左折。早朝と言うこともありますが、車は少ない。大型のトラックが時々追い越して行く程度です。他の地方では余り見ない、競走馬専用の運搬車もここでは珍しくありません。路面は良好と言えるでしょう。出発して暫くは牧場や畑の中の平坦な道が続きます。10kmほど進んだオロマップ地区では、丁度覆道になったあたりの対岸にオロマップキャンプ場が見えます。ただ対岸に渡る道はなく、かなり下の、日高幌別川を渡る手前の道から入るほかありません。林に隠れたむき出しの地面だけが見え、かなりワイルドなキャンプ場に見えました。更に進むと上杵臼の駐車帯が左に出ます。トイレもある立派な駐車帯です。言い忘れましたが、この天馬街道には商店はおろか自販機もありません。水も含めてすべて用意する必要があります。この辺りから段々と上りが始まってきます。天馬街道は100m標高が上がる毎に表示が出ますので、これを励みに進みましょう。

いよいよ野塚トンネル 全長4232m

いよいよ野塚トンネル

標高400mを過ぎた辺りで正面に見事なトラス橋が現れ、左には立派な駐車公園が出てきます。翠明橋公園です。休憩小屋があり、観光パンフレットが沢山置かれておりますが、やはり自販機はありません。ここは野塚トンネルの湧水が引かれているのですが、昨年のトンネル付近の崩落以来供給が止まっています。今のところ再開の目途は立たないらしいです。期待していたのと暑い日だったのでこれはちょっと残念。道は更に上り続け、標高500mを越えるといよいよ日高山脈を貫く野塚トンネルとなります。出来た当時は北海道一の長さだったようですが、現在は黄金道路の黄金トンネルが最長となります。それにしても4km程のトンネルはかなり長い。涼めるのは有り難いですが走る内に段々と太陽が恋しくなってきます。トンネルの豊似側では何カ所か工事が行われ、片側交互になっていました。出口付近で後ろを見ると木がなぎ倒されていて相当に崩れたことが分かります。上豊似付近まで道は一気の下りとなり快調に飛ばして疲れも吹き飛びます。

中川一郎生誕の地 この奥に石碑がある

中川一郎生誕の地

道が平らになってくるところが上豊似地区で、堆肥の香る酪農地帯です。往年の十勝の大物代議士、中川一郎氏の生地で、誕生の地の石碑があるのにはちょっと驚きました。さすが中川王国といわれる十勝。こんな何もない田舎から国政を目指した中川少年の思いはどんなものだったかとしばし感慨にふけりました。豊似には立派な記念館もあります。ここからは再び平坦な道となります。漕ぎやすさは風任せと言ったところ。ちょっと意外だったのは、豊似でも道なりには自販機がなかったこと。恐らくT字路を左にとれば一つくらいは自販機があったのでしょうが、広尾側に曲がると、交番はあれども自販機はナシ。そろそろ冷たい物が飲みたくなっていたのでかなりがっかりしました。それでもわざわざ戻るまでもないとやせ我慢です。

野塚の本庄商店 ベンチがあります

野塚の本庄商店

野塚地区で漸く一軒の商店を発見。農協の店舗らしいが「本庄水産」ともあり、真相はどうなんでしょう。何はともあれしっかり自販機あり、店先には休憩用のベンチまで置かれていて有り難い限り。冷たい飲み物を買って休憩です。先客ありちょっと話しを。何でも徒歩旅で少しずつ全国を歩いているのだそう。路銀が尽きると故郷でアルバイトをして金を貯め、前回の終点からまた歩き出す事を続けている青年でした。今日は大樹町まで歩くというのを見送り、こちらは逆方向、広尾へ。広尾は流石は十勝港のあるこの辺第一の町です。町の入り口にはシーサイドパークというキャンプ場もあります。丁度昼時になりましたので腹ごしらえをすることに。恐らく色々と食堂はあるのでしょうが、探すのも面倒で国道沿いの店に飛び込みました。「丸美食堂」さんです。ここで豚丼を注文。間口の割にはかなり広い店です。給水バッグの水が心許ないので補給させてもらいます。この日はともかく蒸し暑い日でした。

フンベの滝 岩盤から水が噴き出す

フンベの滝

広尾を出て町を抜けると、いよいよ黄金道路の始まりです。黄金道路は襟裳岬の東側の道路で、崖が海岸まで迫る地帯が続き、おまけに岩盤はもろく、そこに太平洋の荒い波が打ち寄せ続けるため、大変な難工事とその後の維持のために莫大な金が掛かったのです。「黄金で作った道路」という訳です。広尾側と庶野側にそれぞれ石碑が建っております。黄金道路が始まってすぐ、右側に帯状の滝が見えてきます。フンベの滝です。伏流した水が海岸付近で地表に現れて滝となっています。駐車帯もあって涼むには最適。引かれたホースから出ている水があって、地元の人と思しき二人組がこの水を飲んでいました。「飲めるの?」と聞くと、「今飲んだしょ」の返事。安全性はよく分かりませんが。

黄金トンネルは道内最長の4941m

黄金トンネル

これを過ぎるといよいよ襟裳の核心部に入って行きます。音調津までは海岸の道が続きますが、ルベシベツのマッカ岩が見えてくると、タニイソトンネル、新宝浜トンネル、極めつけは黄金トンネルといった長大なトンネルが待ち構えます。いずれも4kmから最長は5km弱まで。長いです。海がしっかりと見えるのは途中の目黒の集落のみで、あとはトンネルとトンネルの間にちょっと垣間見るだけ。トンネルの中は道は良いのですが、何故かいずれも路面は濡れています。恐らく水が湧いているのでしょう。したがって湿気がかなりです。内部の温度は気温よりかなり低いので、蒸し暑かった当日は助かったことも事実。ただ本当に長くて嫌になる、という感じです。ひたすら闇の中を進みます。目黒にはサルル山道の入り口があり石碑も建っております。

トセップ展望台より黄金道路を望む

トセップ展望台

長いトンネル地帯が終わると漸く庶野の入り口、トセップ展望台に上ります。ここにもう一つの黄金道路の碑が建っております。しばし太平洋を眺めて越してきた道を眺めて感慨にふけりましょう。庶野の市街地は満足な商店はありません。食料は広尾までで調達しておくべきでしょう。国道はここから山越えですが、今回は襟裳岬を越えることが目的なので、道々34号に入ります。向かい風がきつくなってきました。千平(チビラ)地区を越えると、それまでの荒磯がいきなりの砂浜に変わります。百人浜の始まりです。海岸からかなり奥まで砂の丘陵地帯が拡がり、沼地や原生花園が拡がって気分のよい所です。

本日はここのキャンプ場にて一泊することにしました。3時頃でまだ日が高い内に到着しましたが、既に若干のライダーがテントを張ってバイク談義に花を咲かせておりました。風の強い襟裳ですが、このキャンプ場は内陸の林の中に守られるように作られているためテントが飛ばされるような風は吹きません。それでも夜になると結構な風の音でした。すぐ近くには老人センターの入浴施設があって、300円払うと利用できるのは有り難いです。明るい内から一風呂浴びて、早々とテントに潜り込みました。本日はここまで100kmちょっとといった距離です。

鹿の親子が悠々と道路を渡って行く

鹿の親子

翌日はライダーの人たちより一足早く出発。朝の百人浜は前日とはまた違った風情です。鹿の親子がゆっくりと道を渡って行きます。岬の集落から少し登ると襟裳岬。ガスって何も見えず。それでも久々に到達した気分は最高です。岬から油駒まで左手に拡がる笹原と、その先の太平洋を眺めつつ下って行きます。油駒から歌別まではアップダウンがちょっと堪えますが、歌別を過ぎれば、襟裳本町までは一息です。暫くぶりのコンビニでコーヒー。この先様似までは日高耶馬溪と言われる景勝地帯なのですが、現在はトンネルが多くて余り楽しめません。途中の幌満(ホロマン)の川口で休んでいると、日本一周のお兄さんに声を掛けられました。とても大きな荷物を振り分けにして積んで大変そうでした。

トンネルを越えて様似に戻れば、出発地点はもうすぐです。様似の親小岩キャンプ場も中々良いところの様です。

様似親子岩キャンプ場

様似親子岩キャンプ場

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