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道々32号を駆け抜ける

北海道が管理する道は数ありますが、中には通り抜けるのが冒険になるようなすさまじい道もあるようです。代表格は136号夕張新得線でしょうか。何しろ夕張〜ニニウ間は途中から踏み分け道になる始末ですし、当然ながら新得側には未開通部分がたっぷりありますから。今回の32号はそれに比べればチョロいものですが、それでも峠部分の6km強の区間は未舗装でヘアピンの続く昔ながらの峠道を思い起こさせてくれるルートです。通行量が少ないことが予想されるので熊もちょっと心配。まず普通のロードバイクでは通過困難と思われます。今回はここを含んだ周回ルートを考えてみました。使用する自転車はダブルサスのMTBとして、念のためブロックパターンのタイヤで臨みます。コース中の殆どが舗装路なのでちょっと重装備過ぎるかとも思いましたが、もう何年も通ったことがないですし、途中から豊浦へ抜ける914号は舗装され、恐らくこちらに殆どの車が流れるでしょうから、32号は放置されて荒れている可能性が大と考えての結論です。果たしてどうなるか。

ブロックパターンのタイヤでこんなに長い距離を走ったことがないので時間の見当が付かず、後の事を考えるとともかく早く出発することにこだわりました。そこで前日は近くのキャンプ場で一夜を明かしましたが、よく晴れたせいで放射冷却が猛烈で、おまけに夏用のシュラフでは朝3時には寒くてとても寝てられなくなりました。早々にテントを畳んで黒松内の道の駅に向かおうとすると、車のインテリジェントキーが効かない!寒さでキーのボタン電池が劣化したのですね。さあどうする。機械式のキーを使う手もあるのですが、エンジンを掛けるタイミングを間違えると防犯用のクラクションを鳴らしてしまうことになって、早朝のキャンプ場では顰蹙ものです。ここは慎重に行こう。暫くズボンのポケットでキーを暖めてバッテリーを甦らせ、なんとかエンジンスタート。黒松内の道の駅に付いて車載の温度計を見ると、何と0℃!これで6月か?という猛烈な冷え込みです。手がかじかんで細かい作業が出来ない。ジェットボイルもガスが気化せず中々お湯が沸きません。前途多難、意気消沈して一瞬ひるみましたが、朝日が昇ってくれば背中に温かみが戻ってきて勇気百倍、思い切って出発です。

今回は事実上三つの峠を越えることになります。まずは出発してすぐの目名峠。白井のパーキングからじりじりとした上りが続きます。先ほど車で下ってきたコースを逆にたどっていることになります。200m程のちょっとした上りですし、朝の元気な内ですからまあ大したことはなし。登り切ると左に美しい牧草地が拡がります。この辺にはかつて上目名の鉱山があった事を今回知りました。黒鉱というのだそうですが、金や銀が取れたのですね。今はそのことを示す小さな立て看板が立っているだけです。それも殆どの人は気づくことはないでしょう。道は目名川へまっすぐに下って行き、やがて蘭越に到着します。この辺にはコンビニが二軒ほどあり、ここが今回のコース上で唯一のコンビニ補給ポイントとなります。100円のコーヒーでしばし暖まる。何しろ冷えます。これで日が出ていなかったら悲惨です。

仏像の台座の道標

仏像の台座の道標

上昆布駅逓所

上昆布駅逓所

新幹線の工事現場

新幹線の工事現場

この先昆布までは若干のアップダウンがありますが距離はたいしたことないです。そしていよいよ道々32号の始まりです。入るとすぐに、峠付近6kmが狭隘で砂利道である事を警告する看板が待ち構えています。友人や家族に現在地を通知して進行します。どうせ最後は携帯は圏外になるのは分かっていますから。車は殆どいないかと思ってましたが、意外と時々出会います。釣りか山菜採りの人たちなのでしょう。とはいえ道の真ん中を堂々と走っても文句を言われない程度の交通量です。熊よけの鈴をハンドルにぶら下げます。これはまあおまじないみたいなものです。それに熊よけスプレーもボトルケージにセット。用意は万端です。民家は途切れ途切れ続いていて、横は昆布川の流れ。熊の糞は意外とみられません。この辺にはあまりいないのかも知れません。一旦民家が途切れて森林帯に入ります。途中に北海道新幹線の工事用道路が左に分岐します。発破作業の警告看板もあります。新幹線は昆布川を橋で越えるらしい。計画では長万部から殆どがトンネルルートとなりますから、ここは数少ない地上部分になるらしいです。新富地区に近づくと再び周囲が開け牧草地が拡がります。昆布川はちょっと不思議な地形を流れていて、上流部に盆地上の新富地区があるわけです。ここで先ほど書いた道々914号が左折して分岐します。分岐点には道標代わりの石像が置かれています。少し進むと上昆布駅逓の後を示す石碑が建っています。この道がかつては重要なルートであった事が忍ばれます。

道々32号の砂利部分

よく締まった砂利

さて直進すると程なく砂利道の最終警告が出て、「この先Uターン出来ません」の脅し看板が並びます。もう一度メール。まだかろうじて圏外ではなかった。空気圧を思い切り落とします。ファットバイクではないので、規定圧2気圧が限界ですが、ともかくそこまで落とします。これで砂利路面でタイヤがポンポンはねることはなくなります。走り出しの路面は事前に予想したよりかなり良いもので、恐らく昔コンクリート舗装されていたものと思われました。それが長い間に風化して砂利道風になっているのですが、元の平らな部分がかなり残っているのでMTBには走りやすいと感じられる程度の荒れようです。結構上まで牧草地が拡がり広々とした景色に癒やされます。これを過ぎるとヘアピンの山道に入って行くのですが、ここまで来ても路面は良くしまった砂利道で難儀するほどではありません。そろそろ一発目の爆竹の出番です。景気よい音が谷に木魂します。登り切ると暫く尾根筋をすすみ、反対側の下りに掛かります。もう一発爆竹。こちらの路面も同じようなしまった砂利で、大きな穴もなく快適に下ることが出来ました。30km/hrそこそこですが、砂利道だとかなりの速度感あり。当初誰にも会わないだろうと思っていたのですが、下りの途中で車が一台追い抜いて行きました。この峠は昆布側から抜けた方が良いと思います。というのは豊浦側のほうが砂利区間が長いからです。砂利区間を延々と登るのはつまらないし消耗しますから。丁度高速道路の橋脚の部分で砂利道が終わります。空気圧を元の4気圧強に戻して、あとは残りのコースを消化するだけです。猫が一匹橋の上に現れました。民家もないのに一体どこに住んでるのか。

猫がいた!

猫がいた!

暫く高速道路を左に見て下り、やがて前方で山が海に落ちる雰囲気が感じられるようになると国道との交差点に至ります。今回は交通量が多い上に山越えをする国道を進まず、直進して道々608、609号をたどって噴火湾を眺めます。車は少ないです。寂しくない程度の交通量です。大岸の集落は店らしいものはあまりなし。程なく大岸駅着。駅舎でパンをかじりました。駅の前には一軒だけ商店があり、日曜日で閉まっていましたが飲み物の自販機はありました。大岸駅は目の前に海が拡がるのどかな雰囲気でとても癒やされます。ここから平坦な海沿いの道をたどり礼文の海岸の絶景を楽しみます。一部道が狭隘になる場所があり、この辺の景色が一番素晴らしい。丁度この季節には岩に付いたハマナスやエゾノカンゾウが今を盛りと咲き誇り、これをバックにカモメが飛び交います。

岩付きのハマナス

岩付きのハマナス

礼文の漁港を過ぎると道は内陸に入って行き、やがて再び国道と合流します。ここから本日最後の上りである礼文華峠に掛かります。かつては有数の難所と言われた峠だそうですが、現在は深淵な谷を架橋が越え、峻険な尾根にはトンネルを穿って道がつけられていて、それほどの苦労もなく越えることが出来ます。礼文華トンネルをこえて小幌の谷を越える辺りが最高点です。この辺の橋は、是非自転車を下りて歩いてみることをお勧めします。小幌の谷の絶景は、車ではすぐに通り過ぎてしまって味わうことが出来ません。橋の上ですから駐車することも出来ません。これを楽しめるのは自転車ならではの特権です。特に豊浦側から長万部側に進む場合は道の海側を進むこととなるためその眺めは例えようもありません。遥か下に、日本最高の秘境駅である小幌駅のトンネルを望むことも出来ます。

道はいよいよ最終章に入ります。礼文華峠から一気に下ると、黒松内へ右折です。道々266号、344号とつないで出発点へと戻ります。下り基調の快適な道です。この日は追い風に乗ってスピードが上がりました。観音橋で右折して大成地区通過。ここの学校跡地には弁開凧二郎終焉の地の碑が立っております。アイヌ人の獣医であった弁開氏はこの観音橋で転落して亡くなったとの事。恐らくその頃の観音橋は相当に危ない作りだったのでしょう。朱太川から小尾根を乗り越すとあとは白井川沿いの下りをたどって、道の駅はもうすぐです。

全部で90km強の周回ルートですが、MTBか、少なくともランドナーやシクロクロスにできるだけ太いタイヤを装着する必要があるでしょう。ブロックパターンのタイヤは、当然ですが速度が上がりません。私の腕ではロードより10km/hr位遅い感じです。

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