霧立峠を回る五つの峠を越える旅

空知地方は石狩川の支流である雨竜川に沿って北へひょろ長く延びた形をしています。その最も奥に位置するのが朱鞠内湖。人造湖ですがマスやワカサギが釣れる美しい湖です。この北には日本で最も寒い場所の一つとして有名な母子里の集落があります。東に一山越えるとそこは天塩川の流域となり、区分では道北になります。西に一山越えると日本海を望む留萌地方となります。今回はこの空知北部の最も深いところを北上し、幌加内、添牛内から霧立峠を越えて留萌管内の小平町へ、更に霧平峠、達布峠をへて周回するコースをたどってみました。コースには「峠」と名の付く場所が5カ所もあります。そのうち二つは本当の峠というよりも雨竜川の高巻き道の最高点という程度の意味合いです。いずれも標高が300mちょっとという、峠としては小規模のものですから、ヒルクライムにはほど遠い上りではあります。

まずどこをスタートにするかですが、最後に下って終わりにしたいので、札幌から出かけるのなら沼田町かその近辺と言うことになります。沼田町の田島公園が丁度良いと思います。丁度コースの曲がり角に当たり、小さいですが駐車場があり、トイレもありますし水も出ます。キャンプ場というわけではないのでしょうが小さな炊事場もあってちょっとだけならテントも張れるでしょう。この日はだれも泊まっておらずテントは遠慮しましたが。ほろしん温泉から下りきったところにある「すずらん駐車公園」というのも良いかもしれません。トイレなどの施設は何もありませんが。あとは幌新温泉までの途中の道端の空き地がいくつかありますが、所有権がよく分からないのでうっかり停めると怒られるかも。

秩父別テントサイト

気持ちの良いテントサイトだ

前日どこで夜を明かすか。ほろしん温泉のキャンプ場を考えていたのですが、私が行った当日は「ほたる祭り」というイベントをやっている週末であった所為もあるのでしょうが、一杯でした。サイト自体はかなり広いと思うのですが、最近のオートキャンプ場の常でテントを張るためのサイトがあらかじめ決められていて、定員以上の人は入れないようになっております。受付のおじさんに、泊まりたいのですが、と言ったところ「予約は?」のひと声。一部のキャンプ場で予約が必要なのは知ってはいたのですが、まさかここもとは思っておらずびっくり。何とか隅っこでもいいので一張りだけでも、と頼み込んでみましたが、けんもほろろの応対でした。空き地は沢山あるのですけれどね。温泉の裏側の空き地もテントが張れるのですが、私の付いた時間が夕方だったのが悪かったのか、もう入れてくれません。ホテルで聞いてみたところ「今日は終わりです」の一言。全くとりつく島無し。さて困った。車中泊は嫌だしどこか泊まれないか。マップルを見ると近隣の公園にテントマークが付いています。明るい内は迷惑だろうが夜だけなら何とかなるか。薄暗くなる中車を走らせます。最初に見たのが先ほどの田島公園。ここは流石に誰もおらずテントを張るのは気が引けたので、更に走って秩父別のスポーツ公園に至りました。ここはすぐ向かいが温泉施設併設の道の駅になっており市街の中心部に位置しております。付いてみると数張りのテントが見えてほっとしました。よく整備された芝生で人は少なく静かな夜を過ごせそうです。一人用のテントはすぐに張れ、夜風に涼みつつビールが美味い。食事は市街の食堂で何か食べてみよう、と繰り出しました。飲食店は道の駅近辺に数軒あるだけ。私は角にある「ファミリーめしやブロッコリー」という居酒屋兼食堂にて食事といたしました。なかなか気持の良い店で、田舎の飲食店らしくボリューム満点の食事です。この後道の駅の風呂にも入り満足して眠りにつきました。

髙橋峠

峠と呼ぶにはちょっとという場所

翌朝は4時前から「チッチッチッ」という規則正しい音で目が覚めました。珍しい鳥の声だ、と思っておりましたが、明るくなってから見ると隣のパークゴルフ場に水を撒くスプリンクラーの回る音でした。持参の食料で腹ごしらえをしてテントをたたんで昨日下見をした沼田町の田島公園へと向かいました。車だとすぐに着きます。自転車を組み立てて出発です。公園のすぐ前が空知国道275号ですから公園を出ればもうコース上です。早朝の事とて車はほとんどいません。6時過ぎでしたが濃い朝霧が辺りを覆ってひんやりとした空気。走り出すとサングラスが水滴で曇り始め時々停まってぬぐわなくてはなりませんでした。ほぼ平坦な直線の道が続きます。竜水橋で雨竜川の清流を渡ると程なく多度志の交差点

幌成の廃校

幌成の廃校です 現在は郵便局

となります。国道は左折して北へと続いて、ドンドン進めば遥かに美深まで続いております。交通量は更に少なくなり、両側には低い山並みが迫ってくるようになります。雨竜川に沿って山間に分け入って行く感じです。補給の可能な商店などはほぼありません。幌成地区と鷹泊地区にわずかに自販機がある位です。途中の雨竜川をわずかに高巻く場所に髙橋峠があり、イチイの大木があります。

鷹泊を過ぎると道は幌加内峠の上りに掛かります。実はこの峠も本当の峠と言うよりは大きく雨竜川を高巻く山越えの道なのが地図を見るとよく分かります。雨竜川というのはかなり面白い川で、幌加内より下流に

幌加内峠

幌加内峠のトンネル

函状の中流域があって恐らくここに沿って道を通すことが難しかったと想像できます。そのため川の左岸の尾根を越えて上流域の幌加内地区の盆地につなげたものでしょう。一度雨竜川本流を離れて支流に沿って上って山を越えると再び雨竜川に出るというわけです。幌加内峠はお決まりのトンネルとなって終わり、下ると人造湖の横を抜けて幌加内地区に入って行きます。幌加内は四方を山に囲まれた盆地状の地形が広がり、日本一の蕎麦の栽培地帯だけあって一面の蕎麦の花が見られます。幌加内市街はこの辺で最大の集落であり、少ないながら飲食店もあります。ここに入った頃から朝霧は一転し快晴で日差しが肌を刺すような陽気と

第三雨竜川橋梁

深名線第三雨竜川橋梁です

なりました。わずかな上り基調の道を添牛内へと進みます。およそ10kmで幌加内道の駅に到着ですが、その少し手前に旧深名線の幌加内鉄橋が残されております。緑色のトラスが美しい橋です。この橋は鋼材をイギリスから輸入して組み上げた物で、その工法も当時としては画期的な物だったようです。詳しいいわれが書かれた看板が設置されています。幌加内の道の駅は開店が遅く、なんと午前10時です。私が着いた9時にはまだ開いておらずトイレを使っただけでした。良い天気であった事もあるのでしょうが沢山のサイクリストが集まっていて、聞けば前日に朱鞠内湖に泊まり今日はその戻りであるとの事。連日の休みとはうらやましい限りです。ここには温泉施設も併設しております。(せいわ温泉ルオント)

幌加内道の駅

幌加内道の駅

さてこの後同じくらいの距離を走ると添牛内に至ります。ここからが霧立峠の上りの始まりとなります。この頃になるとアスファルトが焼けるような気温となってきました。道は添牛内の入り口で分かれてしまうので市街地は見ませんでしたが多少の店などはあるはずです。水を補給するならとりあえずここです。これを越えると達布まで補給は不可能です。それどころか民家もないですからその覚悟で進んでください。ちなみにこの後の霧平峠近辺は携帯も圏外です。左折して観月国道239号に入りますとすぐに「霧立峠8km」の看板が出て目的地が意外と近いことに勇気が湧きます。上りはじりじりとしたもので、本格的な上りにはほど

上杉周大の畑

蕎麦の花盛りです

遠いものです。最後はあっさりと峠となり、町境を過ぎたところに広場と「霧立峠」の石碑があります。この日は真夏と言うこともあって日本海へ向かう行楽と思われる車やバイクが時々追い抜いて行きましたが、概して交通量は少ないです。ツーリングマップルの既述では「ほとんど通行する車がない」となっていて、季節によってはかなり寂しい道なのではないでしょうか。今回の周回ルートで一つ気になったのは熊のことです。実は今回のルート付近には史上最悪の熊害として知られる「三毛別事件」や「沼田幌新事件」の舞台があり、今でも道内で熊が多い場所である事に変わりはありません。従って曜日と季節によってはこちらの

苫前町の標識

三毛別のある街苫前 可愛いですが

対策も必要でしょう。また夜間に一人で自転車で走り抜けるっこと等は止めた方が無難でしょう。

上りと同じくらいの距離を下りきると、沼田方面左折の看板が出ます。霧平峠(きりひらとうげ)の始まりです。(道々742号)交通量は更に減少し、ほぼ通行量はゼロ。それでもたまにバイクの連中が追い抜いて行きます。いつもならその爆音にうんざりする私ですがこの日ばかりはこの音がお守りに聞こえてほっとしました。周囲は当然人家ゼロです。くどいですが携帯は峠のむこうまで圏外です。動けなくなったら助けを呼ぶことは出来ないと思ってください。峠はトンネルとなっていて、越え

霧立峠

今回の最高点です

た向こうはほどよい下りが続いて小平蘂湖に至ります。ここで未開通の道々126号と合流します。小平蘂湖は人造湖ですが明るい印象の湖で対岸の長大な湖上橋とその背景の切り立った岩山は一幅の絵のようで、これを望む休憩所で一休みするのが良いでしょう。ただし飲み物などは一切売っておらずトイレと日よけの東屋があるのみです。湖岸を抜けて下ると達布地区です。民家が数軒の小集落で、商店一軒、ガソリンスタンドが一軒です。ここまで来ると峠はあと一つ、達布峠を残すのみ。もうひと頑張りですが、既に100km近くを走っていますから実はこれがかなり堪えます。自販機があって漸く冷たい飲み物にありつけて一息です。道

小平蘂湖

小平蘂湖の絶景

は市街から直進で沼田へ向かうこととなります。(道々867号)この道中も民家はほぼありません。従って携帯もほぼ圏外です。唯一と言ってよい人工物は吉住炭鉱です。ここは全国でも珍しい、道内にも三カ所だけの露天掘りの炭鉱の一つです。場内は立ち入り禁止ですから道から眺めるだけですが、立っている看板も寂しいものでした。この道も交通量ほぼゼロ。途中で出会ったのは車数台と自転車で下ってきた三人組だけ。この人達に会っただけでも慰められます。実はこの峠が一番きつかった。暑さの中で最後の最後でもあって疲労していたということもあるのですが、上りの距離も登高距離も本日最大なので仕方ないことではあり

吉住炭鉱

草深く、今も稼働中

ます。おまけにこの日は後半がずっと向かい風となってつらいことこの上なし。漸く峠を越えれば後は基本的に下りです。ポロピリ湖の駐車公園で最後の休憩を。ここは水が出ます。(自販機などはないです)さらに下ると、きのう苦い目にあったほろしん温泉のキャンプ場を越えて更に下って行きます。恵比島付近で道々1007号が左に分岐すると沼田市街はもうすぐそこ。6km程で出発した田島公園に至ります。

総距離は140kmちょっとですから、一日の楽しみとしてはちょっときつめ、といったコースになります。くどいようですが、このコースを走る人は、パンクへの備えはもちろん、途中の水や食料の補給をあてにしないだけの物を持つべきです。携帯で助けを呼ぶことも通行人に援助を求めることも期待してはいけません。それと走る時期によっては熊への一応の注意も必要かも。夜間に走ることは是非止めた方が良いでしょう。

CateyeAtlasの該当ページはここここ。ただし一部ログが切れております。