天空の楽園 トマムを巡る

上川振興局の最南端にあたる占冠村は、かつては陸の孤島とまで呼ばれた山深い場所にあり、現在の樹海ロードや道東道が出来る前は行き着くことさえ大変な場所だったと聞きます。今回改めて走って見て思ったのですが、非常に興味深い地形です。清流鵡川の最源流部なのですが、下流の赤岩青巌峡が函状の激流であるのに、占冠村から上流のトマムに掛けては平らな地形が拡がり、一転して穏やかな流れに。そしてトマムを過ぎるといつの間にか分水嶺を越えていて、空知川水系に入り込んでしまいます。まるで天空に浮かんだ大地のような地形です。「シモカプ(shimokap)」(とても静かで平和な上流の場所)というのがうなずける感じがしました。占冠村からトマム、落合、幾寅と巡り、金山湖の横を通って金山、金山峠を越えて周回するコースです。

不思議な泣く木

不思議な泣く木

スタートは占冠の道の駅か占冠駅が良いでしょう。どちらも車を置くことが出来ます。スタートするとすぐに金山峠との分岐が出ます。これを戻ってくるわけです。右をとると道々136号、永遠に開通しない道々である夕張新得線、トマムへの道。ゆっくりとした上り基調の道が続きます。路面は荒れておらず走りやすいです。右には鵡川の美しい流れが続きます。

「不思議な泣く木」という看板が右手にあり、ちょっと休憩。二つの部落の争いに恋仲の若い二人が巻き込まれ、落胆した二人が相次いで死んでしまう、というストーリーは洋の東西を問わず共通のようです。同様の言い伝えは道央の留寿都にもあり、やはりその木を切ろうとすると悪いことが起こるというのも共通しています。

途中左折路が出てきます。幾寅峠への分岐です。私が通った時にはゲート

幾寅峠分岐

幾寅峠分岐

が閉められ通行止めになっていました。昨年の大雨で路盤が決壊したものの様です。南富良野やここ占冠、それから十勝の北側の地方の被害は想像していたより深刻のようです。程なく道東道、道々、それに石勝線の三本が全て交差する地点を通過します。ちょっと珍しい場所です。これを過ぎるとトマムの駅はもうすぐ。当然ながら無人駅ですが驚くことに特急が停まります。というよりここは特急しか走ってないのです。特例として新得-新夕張間のみ乗る場合は普通料金で特急の自由席に乗ることが出来るのです。ただしこの区間を越えて乗ると特急料金が掛かるので、必ずこの区間で降りなくてはなりません。トマム駅にはトマムリゾートのお迎えバスを呼ぶ電話が設置されていました。このリゾート施設の客のために特急が止まるようなものなのです。それ以外の乗降客はほぼないでしょう。

これを過ぎると山の中に忽然と二本の巨大なタワーが現れます。トマムリゾートです。森の木のはをイメージしたものでしょうか、緑や薄茶色などのダンダラ模様のような珍しい外観で、ちょっと不気味な眺め。この地区には他にも飲食店や民宿が点在しています。

トマム駅

トマム駅

やがて道は上トマム地区へ。明るく開けた盆地のような地形の場所です。ここまで来ると鵡川の清流がチョロ川に変わっているのはちょっと驚きです。普通は川が上流に行くにつれて急な流れになるものなのですが、言葉は悪いがドブ川のような緩やかな流れです。もちろんドブ川とは違って水はきれいですよ。何とも穏やかな雰囲気で、いにしえのアイヌ人が「神々の住む場所」とたたえたのが分かる感じがしました。市街地のどつんまりでT字路になり、右へ行くと幻の新得への道。左が道々1117号となって狩勝峠への国道に通じております。当然左へ曲がります。当然上りが続くものという期待は見事に裏切られます。チョロ川の鵡川を渡るとゲートがあり、ほんの少し走ると、何故かペダルが軽くなっている。おかしい、いつ上りが来るのか、と思っているとドンドン速度が上がります。下っていたのです。太平洋へ流れ落ちる鵡川と日本海に流れる最大の河川、石狩川水系の分水嶺がこんな形で、しかもかなりの高地で通過できたことに、ちょっと感動です。やっぱりここは神々の遊び場か。

狩勝峠 売店は閉まっていた

狩勝峠

気持のよい下りが落合の出会いまで続きます。左には空知川の支流が見えますが、大雨の爪痕が生々しく展開します。確かにこれでは根室本線を開通できないと思い知りました。道路は少し川から離れていて助かったのでしょうが鉄道は川岸近くを通っている所があり、路盤がえぐれています。圧巻は鉄橋の上に残された巨大な流木の山。つまり鉄橋の上まで水か来たということです。恐ろしいことです。よく鉄橋が流されなかったものだと逆に感心したりしました。当日の川は橋の遥か下を流れていて、この水がこの橋の高さ付近まで上がったと考えると、いったいどれほどの水が流れたものでしょうか。

落合の出会いから素直に幾寅に下るべきか迷いましたが、まだ時間が早かったし折角なので数十年ぶりに狩勝峠を訪ねることにしました。狩勝峠はかつて北海道の名勝の一つで、帯広方面へ抜けるための幹線道路でした。しかしその後悪路だった日勝峠が改良され、更に樹海ロードの開通、改

落合の鉄橋 流木は鉄橋を乗り越えている!

落合の鉄橋 流木に注目!

良、道東道の開通と、南側を回るルートの整備が進んだことで、交通量は激減してしまいました。十勝平野を見下ろす眺めはそれなりに良いのですが、それとても日勝峠と比べてどうか、という所もあって観光の面でも今一つの感あり。かつて賑わった峠はどうなっているかと登り始めました。初めは直線気味で一定の上りが続き、思っていたより走りやすい。じわじわと高度を稼ぎます。道が曲がり始めると漸く峠らしくなり、左に谷間を眺めつつ高度を上げます。左前方はるか上に携帯電話用のアンテナが見えてきます。恐らくあれが峠か。意外と近いね、という感じ。一休みして先を急ぎます。峠着。お決まりの売店があるのですが既に廃業したのかやってませんでした。やはりここも時代の波には勝てなかったのか、と寂しさを覚えました。展望用のドーム状の東屋は道を渡って反対側の小高い場所にあり、晴れていれば新得方面が美しいのでしょうが、生憎の雲に覆われむなしく峠を後にしました。

盛りが凄いです!!カツも美味い!

道の駅のカツ丼!

落合に下ると丁度川をラフティングのボートが下って行くところでした。ここから幾寅へは基本的に下り基調。然したる見所と言うほどの場所もなく、次第に平地が開ける中を進んでいきました。やや向かい風となって思ったほどの速度にはなりませんでした。やがて幾寅が見えてきます。ここが南富良野町最大の街になります。道の駅もあり小さいながら商店街もあります。映画の「鉄道員」のロケ地になった駅でもあり、駅舎がそのままロケ地跡として残ったまま今も利用されております。ただ今回尋ねたときには東鹿越から新得までの線が停まっていたので駅舎を通る列車を見ることは出来ませんでした。幾寅で食堂を探しましたがいずれも開店が遅くてやってない。折角時間つぶしに狩勝峠を回ってきたのに残念。仕方なく、というのは失礼ですが、道の駅の食堂に入ってみました。所がここが中々良い。特にトンカツが良いです。カツ丼のトンカツがやけにしっかりとしていて食べ応えあり。正解でした。

快晴の金山駅 抜けるような青空

金山駅

お腹もいっぱいになったので暫く道の駅の二階で昼寝。ここは林業関係の展示スペースになっていて見に来る人はほぼないので一階の喧噪とは無縁でベンチでごろ寝と行きましょう。一眠りして外に出ると午前中の涼しさは去って照りつけるような暑さになっていました。この先もう一つ峠を越えることを考えるとちょっと心配になります。気を取り直して出発です。道の駅からすぐに左折。金山湖の右岸を進みます。交通量は少なく路面もまずまず。基本は下り基調なはずですがあまりそれを感じません。金山湖の中間辺りで東鹿越からの橋が合流してくると程なく公園とキャンプ場があり、ホテルや若干の売店などもあります。湖畔にはラベンダー畑がありますが中富良野の施設などとは比べものになりません。これを過ぎると路面は少々荒れてきて道も狭くなります。尾根を越える度に道が上下してちょっと疲れます。金山ダムのトンネルを過ぎると一気に下って金山の市街に入り、線路を渡ってすぐに左折すれば無人の駅舎に着きます。強い日差しを避けてしばしの休息。こういう日には日陰があるだけでも助かります。

最後の上りに掛かります。金山峠です。距離は10km弱。大したことはないのですが、走行距離が100kmに近づいてくると疲れもたまってきてスイスイとは行きませんでした。最後のトンネルを抜ければ峠は終了します。後は占冠へまっしぐらに下って終わりになります。途中に民家はほとんどなし。占冠側に湯の沢温泉という温泉施設が一カ所あるのみです。占冠駅前の観光施設は殆どもぬけの殻のような状態になっていて無人の休憩所です。数年前にはまだ多少の売店などもあったのですが。自販機だけは動いていたので冷たい飲み物にありつくことは出来ましたが。

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